特別支援教育を担当する先生方(特に通級指導教室や巡回指導)のために開発しました。
ポイント1 「自立活動」の授業につなげるためのアセスメントである
通級指導教室や巡回指導は、「自立活動」の授業をおこなっているはずです。
ポイント2 学校教員が行うことができるアセスメントである
学校の教員のバイブルである「学習指導要領」に完全準拠しています。
ポイント3 初任者でもできるアセスメントである
「簡単にできること」と「精度を高める」ことを両立させました。
ポイント4 OJTにも使えるアセスメントである
教員同士で「これはどちらかな?」と力量を高め合うこともできます。
そもそも「自立活動」とは?
特別支援学校の学習指導要領解説にあります。
これは、国語科や算数科・数学科・道徳科のように「教科」ではありません。
「教科ではない」ということは、どういうことでしょうか。
すべてを網羅する性質のものではない
例えば国語科なら、国語科の学習指導要領に示されていることはミニマムスタンダードとして、原則的には「全員が履修すべきもの」として示されています。
しかし、「自立活動」は教科ではないので、まずこの点が異なります。
「資質・能力の3つの柱」に沿わない
各教科は、「知識及び技能」「思考力、判断力、表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱で目標が整理されています。
しかし、「自立活動」では、そのような整理はしていません。
ここで実務上のポイントになるのは、「各教科の指導案のフォーマットは通用しない」ということです。「自立活動」の授業なのに、この3つの観点で目標や評価を立てることは、「教科と混同している」ことになります。
学習内容は個々に応じる
例えば5名の子どもを対象とした小集団学習で、「今日は風船バレーをします。これは自立活動の『人間関係の形成』の指導です」というのは、自立活動の授業づくりの方法としては誤っています。
多くの場合で、先に「授業で何をするか」ありきになりやすいからです。
言い方をかえれば、「授業で行う学習内容に子どもをあてはめがち」になります。
「風船バレー」をすることに、子どもたちをあてはめてしまいがちになります。
「自立活動」の大原則は、「個々の子どもの実態に応じる」ことです。
先ほどの例を正確に言うならば、「5名の子どもの実態をアセスメントしたところ、『人間関係の形成』の指導が必要である。そのために「風船バレーが適切な教材である」という流れになることが必要です。
「自立活動」に基づくアセスメントの方法
まず、「自立活動」には6つの区分があること、これを「番号」含めて丸暗記してください。
1 健康の保持
2 心理的な安定
3 人間関係の形成
4 環境の把握
5 身体の動き
6 コミュニケーション
ひとつひとつ深掘りするのは、後回しで構いません。
とりあえずは、用語だけでよいので、この6つの区分があることをおさえておいてください。
具体的な子どもの姿から、さっそく、アセスメントをしてみましょう。
例えば「授業中、急に大騒ぎする」子どもについてです。
例えば、
昼夜逆転した生活をしている。そのため、昼間、眠気がおそってくると、イライラし始め、急に大騒ぎする。
このようなな子どもであれば、この子どもに必要な「自立活動」の指導は、
1 健康の保持
と、なります。
つまり、健康状態が、日常生活に影響を及ぼしている状態であれば、この「1 健康の保持」の指導が必要であるということです。
5時間目の体育で苦手な鉄棒を行う。それが気になり、だんだん不安になってきて、授業中、急に大騒ぎする。
このようなな子どもであれば、この子どもに必要な「自立活動」の指導は、
2 心理的な安定
と、なります。
心理面、メンタル面、気持ち、落ち着き、意欲 などに関することはこの「2 心理的な安定」となります。
情緒障害系の通級指導教室や、特別支援教室(巡回指導)では、ここに該当する子どもが一番多いと思います。
となりの友達が、なんか自分をにらんだような気がしたから、授業中、急に大騒ぎする。
このようなな子どもであれば、この子どもに必要な「自立活動」の指導は、
3 人間関係の形成
と、なります。
対人関係に課題を抱えている場合は、「3 人間関係の形成」となります。
自閉症スペクトラムの子どもの該当率が高いです(もちろん全員ではありません)。
聴覚が過敏である。ガヤガヤしている環境が特に苦手で、教室にいるととてもストレスを感じてしまう。だから授業中でも、急に大騒ぎする。
このようなな子どもであれば、この子どもに必要な「自立活動」の指導は、
4 環境の把握
と、なります。
今、6つの区分に当てはめる作業していますが、「これはどの区分かな?」と迷うこともあります。
ざっくり申し上げて、その場合はこの「4 環境の把握」に該当することが多いです。
45分間、椅子に座ると、非常に疲れる。だから、たまに立ち上がりたくて、授業中、急に大騒ぎする。
このようなな子どもであれば、この子どもに必要な「自立活動」の指導は、
5 身体の動き
と、なります。
ちょっと、こじつけた感のあるアセスメントですね。この「授業中、大騒ぎする」という事例では、あまりこの区分に入ることはないのかもしれません。
肢体不自由の特別支援学校や特別支援学級では、「5 身体の動き」に特化した「自立活動」の指導が必要になります。
自分の気持ちを言葉で的確に伝えられない。だから、言葉で解決するよりも、どうしても騒いでしまうことが多い。
このようなな子どもであれば、この子どもに必要な「自立活動」の指導は、
6 コミュニケーション
と、なります。
ことばの教室は「6 コミュニケーション」に特化しているといえます。
よく、「この子どもは情緒障害の通級(特別支援教室)か、ことばの教室か」で迷うというケースがありますが、「6 コミュニケーション」の指導がメインで必要となるようであれば、「ことばの教室」という選択になるでしょう。このような判断にも、「自立活動」の視点が有効となります。
つまり、「授業中に、急に大騒ぎする」という一つの主訴をとってみても、子どもの実態は多様です。
まずは、「自立活動」の6つの区分で、どの区分に当てはまるのかをアセスメントします。
この「自立活動に基づくアセスメント」の特徴は、冒頭でご説明した4つです。
・「自立活動」の授業につなげるためのアセスメントである
すぐ「何の指導が必要かがわかるようになります」
・学校教員が行うことができるアセスメントである
学習指導要領=教員の専門性に基づくものです。
・初任者でもできるアセスメントである
6つの特徴的な区分の、どれかに当てはめるだけです。
・OJTにも使えるアセスメントである
複数の教員で、どの区分に当てはまるのかを議論すると、アセスメント力の向上につながるでしょう。
「自立活動に基づくアセスメント」の実際
実際には、子どもはいろいろな側面をもっているものです。
ですので、一人の子どもでもこのような、いろいろな実態があると思います。
では、このようにいろいろな側面のある子どもについて「自立活動に基づくアセスメント」を行うとどうなるでしょうか。
いろいろな側面があったとしても、ひとつひとつ「自立活動」の区分でアセスメントをしていけばよいだけです。
例えば、「自分のことを言葉で伝えることが苦手」であれば、これは「6 コミュニケーション」に関することですので、略号として「6」を記入します。
そして、これは本人の弱いところですので、下向きの「↓」を記入します。
次の「相手の気持ちを察することは得意」というのは、「3 人間関係の形成」に関連すると考えられます。ですので。「3」と記入します。
そして、これは本人の強いところですので、上向きの「↑」を記入します。
このように、略号の数字と、矢印を使って、分析していきます。
そうすると、この子どもは、「4 環境の把握」「6 コミュニケーション」に関連する項目がおおいようだということがわかります。
そのようなアセスメントができると、この子どもには「4 環境の把握」「6 コミュニケーション」の指導を行っていくということになります。
この子どもだと、「6 コミュニケーション」が多いです。
ですので、「6 コミュニケーション」が重点指導項目となります。
この子どもの場合は、項目が多岐にわたっています。
このような場合は、どの項目が優先順位が高いのかを考えて、指導をしていくことが必要です。